道路でこけていたおじいちゃんから考える高齢化・過疎化
INDEX
先日の「休日のATMで悩むおばあちゃん」に続き、「道路でこけていたおじいちゃん」を助けました。
防府のスーパーのATMコーナーの前でおばあちゃんに
「…今日は日曜日扱いになりますかぃね…?」
って話しかけられて、
「そうですね、今日は秋分の日じゃけぇ、土日祝日になるでしょうね…」
って答えたら、
「あぁ…そしたら今日はアレが高ォなりますぃね…?」…
— 釣井伸一郎・まちづくりの研究者【下関市・豊北町】 (@shin51tsurui) September 23, 2025
なんだか急に、高齢者の方と関わるエピソードが続きましたが、高齢化の進むこれからは、こんな出来事も多くなりそうです。
こけていたおじいちゃん
おじいちゃん発見
仕事帰りに国道からちょっと外れたスーパーに寄ったんですが、そこからの帰り道は海沿いの国道に戻るよりは、山を突っ切る道を通った方が早いので、そっちの道を選びました。
時刻は19時過ぎ、ほとんど街灯のない暗い道でしばらく車を走らせると、道にはみ出して倒れている自転車がヘッドライトに照らされたので避けようとしたのですが、自転車のそばに、山の斜面から土砂の流出を防ぐために造られているコンクリ塀のようなものにもたれかかり、グッタリと座り込んでいるおじいちゃんに気づき、ギョッとしました。
オイオイオイオイオイマジか、マジかマジかマジか!
おじいちゃんのもとに急行
しばらく走って方向転換できる場所を探し、慌ててUターンかますと、その後わたしの前を走っていた軽自動車もおじいちゃんに気づいたらしく、現場を通り過ぎた後で引き返し、車から降りてきたわたしよりちょっと年上くらいに見える男性がおじいちゃんのもとに駆けつけました。
わたしもほぼ同時におじいちゃんに駆け寄ると、男性が
「おぃちゃん、どうしちゃったん? 大丈夫かね??」
と、おじいちゃんに声をかけました。
「おォ…こけたほぃや…」
と力なく答えるおじいちゃんの目は虚ろです。
わたしはこれまで、高齢者の方のこんな虚ろな感じの目は何度も見たことがあります。だいたいこういう場合は、
- 酒を飲んでいる
- 認知機能の老化
- 1と2の両方
のいずれかの場合が多い気がするのですが、今回はさらに
4. 転倒した際に頭部を強打した
という可能性もあり、非常に心配です。
辺りはもう暗いので、わたしは
「おぃちゃん、ケガしちょらんかライトで照らすけぇね?まぶしいよ」
と伝え、iPhoneのライトでおじいちゃんの顔を照らすと、鼻の下から口にかけて、ベッタリ血がついていました。
「ありゃ!おぃちゃん、鼻血かね、血が出ちょらーね。こけた時、顔やら打った?」
と尋ねると、おじいちゃんはキョトンとした感じで手を鼻の下に伸ばし、ベタッと手についた血(…とおそらく鼻水)を眺めて、
「わからん…」
と呟きます。
「おぃちゃん、ティッシュ持ってきちゃげるけぇ、拭きんさいね?」
わたしは車に戻り、ティッシュを取ってきておじいちゃんに渡してあげました。
おじいちゃんは丁寧に鼻の下の血を拭いながら、
「あー、なんか痛いような気もするのォ…」
と呟きました。
119に通報
一緒に対応した男性とわたしは目を見合わせました。男性が
「救急車呼びましょうか…」
と言い、119番に通報しました。
おじいちゃんの身元確認
男性が救急の方と通話している間に、わたしはおじいちゃんの周りに散乱した物の中から、電気代の明細を発見しました。これで最悪、おじいちゃんが上手に受け答えできない状態であっても、名前と住所は確認することができそうです。
その間に、男性が通報に必要な情報として、おじいちゃんに年齢を確認していました。
70代後半ということで、ウチの親父よりちょっと年上か…。
「おぃちゃん、〇〇さんっていうの?」
と尋ねると、そうだと答えてくれました。受け答えはしっかりできそうで、ちょっとだけ安心です。
救急通報を終えた男性は、現場の近くにお住まいのようで、おじいちゃんの住んでいる地域が分かったようでした。
自転車が車道にはみ出したままだと危ないので、自転車を起こして道路のわきに移動しました。
自転車の周りには荷物が散乱していたので、おじいちゃんがなぜかたくさん持っていたレジ袋に詰めてまとめました。
ワンカップのお酒、煮物のようなお惣菜…。もうすでにちょっと飲んでたかもしれませんが、帰って晩酌しようとしてたんだな…。自転車の荷台にくくりつけてあった袋にはタマネギのような野菜が詰めてありました。
自転車の横に杖のような竹の棒が置いてあったところを見ると、おじいちゃんは自転車をこがずに押して、荷物を運ぶカートのように使っていたのかもしれません。
おじいちゃんとの共通点
男性が、おじいちゃんに
「おぃちゃん、家分かるよ。〇〇の先の、前は〇〇やりよった家じゃろ?」
※「〇〇の先」は目印となるランドマーク、「前は〇〇」は、廃業した商売です。特定できてしまう可能性があるので伏せています
と尋ねると、おじいちゃんは
「おォ、それそれ」
と答えました。
それを聞いてわたしはビックリです。
「〇〇の先?その〇〇のすぐ上に、〇〇を飼って、〇〇をよーけ植えちょってのオィサンがおるじゃろ?アレ、わたしの叔父!」
おじいちゃんの家から数十メートルのところに、叔父が住んでいるのです。
思いがけず共通点が見つかると突然おじいちゃんの眼が輝き、表情が出てきました。
「おォ、それかね!ありゃー働きもんぃや。肥やしでもよーけ積んでのォ…それかねそれかね…」
それからおじいちゃんは、わたしの叔父のきょうだいの話などをされ始めましたが、今度はむしろわたしの方が叔父のことをそこまで詳しくは知らないので、
「へー、そうなんじゃ。わたしゃそりゃ知らんかった…」
と、またも聴くポジションになっちゃいました。
ちなみにこの後、現場から家まで帰る時に実家の母に電話してこのことを話すと、おじいちゃんの言っていたことはほとんど間違いなく、認知はしっかりしていることが分かり安心しました。
「ほとんど」っていうのが一点だけ、叔父さんがビールが好き、って言っていたことが、わたしの知っている「酒にメチャメチャ弱くて、飲まない叔父さん」という認識と異なっていたってことぐらいで、昔は叔父さんもビールは飲んでいたのかもしれません。
救急・警察に引き継ぎ
しばらくすると救急車が到着し、男性が救急隊員に状況を説明していました。
救急隊員がおじいちゃんに様子を聞いている時、話の流れの中でおじいちゃんが
「いや、さっきもね、警察が来て『気をつけて帰りなさいよ』って言うてった」
って衝撃的な発言をしました。
いや警察来てたんかい!
それから、おじいちゃんが立てるか確認したりしていましたが、腰が痛いそうで、ひとりでは立ち上がれない様子…。これはこのまま放っておいてもきっと自力では帰宅できなかったでしょうから、救急車呼んで本当に良かった…。
救急車が到着してからも何台か車が通り過ぎていたので、現場の先はすぐにカーブになっていて見通しが悪いし、救急車も男性の車も停まっていて、わきを通行する車は対向車線にはみ出すことになるので、わたしはカーブの手前に立ち、交通整理をすることにしました。
2〜3台を誘導した頃、今度はパトカーが2台やってきて、警察官が交通整理を替わってくれました。その時に、
「イヤ〜、ありがとうございます。この方ね、1時間くらい前もちょっと向こうでもこけられてて、お声がけしたんですよ。よくこの道でこけられてるんです」
あぁ、本日2度目(あるいはそれ以上)の転倒だったのか…。わたしはさっきのおじいちゃんの発言で、警察はこの状況を見ておきながらスルーしたのかと思い込んでいましたが、ケガもしてなかったら「いつものこと」だったのかもしれませんね。
…にしても、もう日も短いのに…なんだか胸が痛みます。
こうして、救急隊の方がストレッチャーでおじいちゃんを救急車に運び込み、警察官が交通整理をしてくださったので、男性とわたしはお役御免となり、「お疲れさまでした」「ご心配でした」と声を掛け合ってそれぞれ帰路につきました。
お互い特に名前を交わすこともなく、警察の方から事情を聞かれることもなく、スマートに人助けができたことは、温かい気持ちになりました。まだまだ世の中捨てたもんじゃないよね。
おじいちゃんの一件から「高齢化」・「過疎化」を考える
ただ、今回の一件は、高齢化・過疎化の進む地域では結構深刻な問題だと思います。
おじいちゃんの現状を考える
おじいちゃんの家からスーパーまでは5km近く離れています。おじいちゃんは「今はひとりで住んでる」と話していたので、日常の買い物もこの距離を、痛い腰で自転車か徒歩で移動しなければなりません。バス路線ではありますが、本数も相当少ないはずです。
おじいちゃんが通る道路も、スーパーに近づくと小学校もあり、住宅も増えるので歩道がありますが、大半は今日の現場のように歩道もなく、転倒すると場合によっては車道に倒れ込んでしまいます。…というか、転倒していなくても車道を歩いているようなものです。
街灯もほとんどなく、夜は真っ暗で、視認性も低い…。野生動物もワンサカいる…。
そんな道を、薄暗くなってからおじいちゃんがひとりで、ワンカップと惣菜を買って帰ってたのか…と思うと切なくなります。
地域の現状を考える
これはこのおじいちゃんやこの地域に限ったことではなく、わたしの地元・豊北町でもそうですし、旧下関市内でも同様の問題を抱えている地域、同じように切ない生活をしている高齢者はいくらでもいると思います。
「バスの本数がもっとあったらね…」とか
「移動販売が週に1回でも来てくれたらね…」とかいう声も聞かれますが、高齢化だけでなく、ここまで過疎化が進んでしまっては、路線バスも移動販売もビジネスとして成立しないので実現できません。
こうしてどんどん生活が不便になって、ますます人が出ていって、過疎化が進む…という負のスパイラルの中で、昔からの生活を変えられない、土地がある、家がある、墓・仏壇がある高齢者だけが、キツく寂しい生活を送っているという現状は本当にやるせない。
コンパクトシティ構想の可能性を考える
こうなると「コンパクトシティ構想」しかないのか、という気持ちになってしまいます。
例えば今回のケースでは、スーパーや学校のある、地域の中でも中心的なエリアに高齢者の方は引っ越してもらって、歩ける範囲で必要なことが全てまかなえるという生活をしてもらう、ということです。
そうすれば、歩道や街灯の整備も地域の中心部分だけで済み、効率的な予算の運用ができます。
災害時などにも孤立することなく、安心して生活ができます。
地域の中心でも空き家が溢れているエリアもありますから、空き家の有効活用としてもひとつのアイデアとなり得ます。
ただ、これを実現するには相当なエネルギーを要します。高齢者の方の意識改革もまた大変ですし、「こんな計画にはのっからん!」という方がいた場合には、その方は望まずともリアルに「ポツンと一軒家」生活に突入、ということになります。ポツンと一軒家状態であっても、生活インフラは必要ですから、一件だけのために水道や道路や電線などを何kmも保守し続けなければならないという、かえってコスパの悪い運用になってしまう可能性も高いです。
人の住んでいない地域が広大になり、土地も荒れまくって野生鳥獣も増えに増えるでしょうし、やはり「コンパクトシティ構想」に走るという方針を定める前に様々な検証が必要になるでしょう。
そうこうしている間に、市内の田舎サイドは本当に誰もいなくなってしまいそうです。
高齢者のIT活用を考える
高齢化・過疎化の全ての解決にはなりませんが、「買い物」問題だけについて言えば、高齢者にオンラインショッピングを活用してもらうことは有効ではないかな…と思います。
例えば今回のおじいちゃんが自転車に乗れる状態であったとしても、スーパーでサラダ油と牛乳とお酒1升を買って、ホームセンターで洗濯洗剤とトイレットペーパーを買って…ということはできません。
オンラインショッピングができれば、出かけることなく上記全て買うことができて、家まで商品が届くわけです。
ただ、高齢者にオンラインショッピングのやり方を覚えていただくのは相当に大変です。
わたしはまちづくり協議会で高齢者を対象としたスマホ教室を何度か開催してきましたが、LINEの使い方をマスターしていただくのも本当に大変ですし、高齢者を狙ったサイバー犯罪なども横行している昨今、リスクも非常に大きいです。
また、自治会行事の打ち上げの時にチラッとこういう話をしたら、ITエンジニアをしているわたしの幼馴染は、
「オンラインショッピングをみんなが使い過ぎると、地域にひとつしかないホームセンターが存続できなくなっちゃう」
と言って、地域内で購入できるものはできるだけ地域の店舗を利用しているそうです。
イヤ、確かに…
それならば、例えば今、下関市には「スマートシティ推進協議会」という組織があって、市内の様々なことのDX化を考えています。
中にはデジタルデバイド対策を考えているチームがあったり、妊婦さんがタクシーを呼ぶことのできるアプリを開発したりしているチームもあります。
これらのチームが共同して、Uberのような、地域の飲食店や小売店と連携した宅配サービスを開発し、UIも高齢者に分かりやすいようなシンプルで操作性の高いものができれば、高齢者の方も安心して使用できるんじゃないかな…と、Just an idea レベルですが思った次第です。
価格も店頭価格+バス往復運賃くらいの設定であれば高齢者も納得だし、Uberのシステムを真似るのであれば、配達員さんも登録してもらってお金が支払われるようにして、車が運転できる高齢者さんの収入にもなり得ます。
利用のデータをとっておけば、「アレ?〇〇さんしばらく食材買ってないけど…何かあった??」みたいなオンラインでの見守りにもつながったりしないかしら…
なんてことも考えた次第です。
いずれにせよ、高齢化と過疎化がセットで襲いかかってきている下関市。特に旧豊浦郡部。
何かしら動かないことには事態はどんどん悪化が加速していくだけです。
本当に、どねぇかせんといけん…。